小一郎(のちの豊臣秀長/仲野太賀)の3歳年上の兄である藤吉郎(のちの豊臣秀吉)は、生まれ育った尾張中村を飛び出して以来8年間音信不通だったが、突然意気揚々と村に姿を現す。戦国武将・織田信長(小栗旬)に仕官しており、出世するために小一郎に自分の家来になってほしいと頼み込む。小一郎の力を借りながら、貧しい農民から天下人へと駆け上がっていく藤吉郎に、演じる池松壮亮はどのような思いを抱えているのだろうか。また、今作出演への意気込みも聞いた。


10代からともに過ごした仲野太賀さんとの時間をこの物語に捧げていきたい

――改めて、今作への出演オファーを受けた時の心境をお聞かせください。

本当に驚きました。仲野太賀くんとは10代で出会って、自分のことを最もよく知っているような俳優仲間で、身内に近いような感覚があります。共通の知人からも、「兄弟みたいだね」と言われていたんですが、まさか大河ドラマという大きな場所で兄弟を演じることになるとは、つくづくご縁があるなと感じています。

20歳の頃、「15歳の志願兵」(2010年放送)というNHKの終戦特集ドラマではじめてしっかりと共演する機会があって。その時にふたりで名古屋に1か月滞在したんです。公園に行ったり、歩き回って写真を撮ったり、観覧車に乗ったり、毎日一緒に過ごしていました。今回、ふたりで一緒に過ごしたあの地からこの物語が始まることにも不思議なご縁を感じています。
これまで公私をともにしてきた時間を、「豊臣兄弟!」にすべてかして、純粋さや親密さをこの兄弟と物語にささげてみたいと思っています。

――豊臣秀吉はこれまでたくさんの作品で描かれてきた人物ですが、今作の秀吉はどんな人物だと捉えていますか?

これまで語られてきたものがありすぎて、何がこれまでの秀吉なのかを自分の中でいまいちつかめていないところがあります。今作では今のところ、あいきょうがあってぐで大らかで、とても大胆な人物ではあると思います。僕が思うに過去の作品では、彼の愛嬌や狂気性という特異な部分がひとり歩きしたキャラクター像として育ちすぎた部分があるのかなと感じます。

彼のそうした感情表現や行動の裏には何があるのか、単なるお調子者、そういう性格だからということではなく、そこには政治的、商業的な頭脳が常に働いていたということを自分の中で一つ一つ確認しながら演じていきたいと思っています。

キャラクター然としていた秀吉が、ひとりの人間として描かれることを期待していますし、1年をとおしてお見せする中で、そうした様々さまざまな説得力が必要になってくるかなと思っています。今作では兄弟というアプローチで描かれることが大きなポイントで、これまで歴史に埋もれてきた秀長と対比する、あるいは分身として存在する、今作にどういう秀吉がいたら面白いのか、日々向き合いながら演じています。

――俳優人生の中で、豊臣秀吉を演じることになるとは思っていましたか?

まったく想像していませんでした。自分が豊臣秀吉を演じられるのか、そもそも秀吉のことをどこまで知っているのか、最初は戸惑うばかりでした。撮影前に何か手がかりを探している中で、制作統括の松川(博敬)さんが『新史 太閤記』(司馬遼太郎著)を勧めてくれたんです。その中で描かれている藤吉郎が自分の心や体にすごくしっくりきて、これなら自分が膨らましていけるんじゃないかというイメージを得ることができました。以来、八津(弘幸)さんの脚本と、『新史 太閤記』が自分のバイブルと言いますか、この2つを常に持ち歩いて何度も何度も読み返しています。

――藤吉郎は、これまで池松さんが演じてきた役柄とは少し異なるイメージもありますが、チャレンジングな部分もあったのでしょうか。

普段から声が小さいと言われる僕が、“日本三大音声”と言われた秀吉を演じることは大きなチャレンジですね(笑)。ですから、なるべく普段は省エネで、撮影の時は大きな声を出しています。インタビューの声が聞こえなかったら、本当にごめんなさい。


自分よりも人のことを優先する秀長を中心に描かれる新しい大河ドラマ

――主人公の秀長については、いままでご存じでしたか?

実は全然知らなかったんです。改めていろんな物語に触れてみると、確かに弟がいたな、という感覚でした。そうしたこれまで勝者の歴史では語られてこなかった秀長の、歴史に埋もれた善行や、陰の献身、そこに令和の時代の物語の可能性を感じました。秀長という、戦国時代には見合わないような人物をとおして描かれる戦国時代ということに、とても興味が湧きました。仲野太賀くんと秀長の邂逅かいこうが、新しい時代に必要な物語を生み出してくれると思っています。

――仲野さんが演じる秀長の印象はいかがですか。

とても面白いですよ。何より愛くるしいんです。素朴で、秀吉よりも愛嬌増し増しです。秀吉という人物は調略の天才として名を残した人ですが、そこには人の心をきつけるおおらかさと大胆さ、繊細さを持ちあわせ、そこにとびきりの愛嬌と誠実さがあったと思います。今作では兄の調略の代理として、小一郎が調略家として描かれていきます。小一郎はその兄の要素を受け継ぎながらも、さらにそこに人の心に訴えかける真心と親近感、品性と奥ゆかしさ、つつましさ、そういう魅力が加わっていると感じています。

信長も秀吉も家康も、たくさんの人を殺してのし上がった人。令和の時代において、彼らの主張は今の社会と対話できるものではなかなかないと思っています。そこをあえて戦国時代を描くこと。戦国時代とこの令和の時代、あいれない双方を接続する役目として、豊臣秀長という人にスポットが当たったのだと個人的には解釈しています。双方円満を何よりの流儀とする秀長は、僕が知っている仲野太賀くんと重なります。

――実際に共演して、改めて感じた仲野さんの俳優としての魅力を教えてください。

日々魅力を感じています。今は、彼の最新のキャリアをこの大舞台で日々一番近くで見せてもらっているような感覚。素晴すばらしいお芝居を毎日見せていただいていますし、ハイライトのようなシーンがたくさん撮れていると思います。そういう瞬間に立ち会えていることがうれしくて。本当に彼は素晴らしい俳優です。

――なぜ藤吉郎は村を出たのか、なぜ今、小一郎を迎えにきたのか、そのあたりはドラマでは描かれませんが、池松さんはどのように想像されていますか?

諸説ありますが、最新の研究によると、奴隷のような餓死寸前の少年時代を過ごしたことは確かだと知り、そうした背景をキーにイメージしていきました。なぜ豊臣秀吉という人物が誕生したかを考えると、拾われ捨てられの日々の中で、織田信長という当時革新的な発想を持った革命児と出会って、彼の人生がまるで変わった。

当時は生まれながらに身分が決まり一生を過ごす時代ですが、織田家だけはそうではない、ここは家柄や血統ではなく、能力によって身分が変わる。信長という人が出自もわからないような藤吉郎を土の中から拾い上げ育ててくれた。そうしてようやく自分の人生が好転してきたところで、弟の小一郎を貧しい百姓から引き上げ、味方につけようとしたんじゃないかとイメージしています。

――これから小一郎が藤吉郎を支えていくことになりますが、物語が進んでいく中で、兄弟の関係性は変わっていくのでしょうか。

そのあたりどうなっていくのかまだ僕にも分かりませんが、兄弟の人生のハイライトを描く中で、ずっと仲良しで描かれることはないのかなとは思います。ただ、今撮影しているところまではすっごく仲良しです(笑)。今後、構成上の波は作ると思いますが、この暗い時代に物語の可能性を信じて、できうる限り仲良くいたいと思っています。1年後、この兄弟で幸せだったと心から言えるような日々を過ごしたいと思っています。


同時代を生きる人たちに作品を届けることを目指して演じたい

――八津弘幸さんが描かれる脚本の印象はいかがですか?

読んでいてとても楽しいです。読む手が止まらなくて、どんどんページをめくってしまいます。爽やかで、勢いがあって、大胆で、予測できない面白さがあります。る人に元気を与えるような活劇になっています。素晴らしい脚本を無駄にしないように、想いを受けとって、そこに共鳴し力を注いでいきたいと思っています。

――これまでの大河ドラマではあまり描かれてこなかった、母親のなか(坂井真紀)を中心とした家族のシーンも印象的です。

家族においては素晴らしいキャストの方々が、特に積極的に今作にいいエネルギーを持ち寄ろうとしてくれているような気がします。この家族のシーンは本当に楽しいです。第10回以降は戦いの日々で右も左も男ばっかりなので、早く家族に会いたくて(笑)。死が身近にある時代だからこそ、兄弟の絆、家族の絆が浮かび上がってくると思います。豊臣家の物語は、秀吉はもちろん、兄弟はもちろん、家族ごと、貧しい百姓からの成り上がり人生の物語です。家族のシーンが楽しければ楽しいほど良いと思っていますし、そうしていけるように皆さんと力を合わせて良いシーンを積み重ねていければと思っています。

――大河ドラマでは1年以上同じ人物を演じることになりますが、そこにはどんな思いがありますか?

これまでは映画を中心に、自分自身がやりたいこと、突き詰めたいことをやってくることができました。様々な作品に参加させてもらいましたが、この大河ドラマという場所には、どれとも違う特別なものがあることを日々実感しています。今回は、同時代を生きる人たちに、より親密に作品を届けてみたいなと思っています。うまく言えませんが、それは秀長という人から勝手に受けとっているメッセージなのかもしれません。観てくれる人に、生きる夢と元気と楽しみをお届けできるよう、この物語を信じ、ベストを尽くしたいと思っています。