発達障害を抱えながら裁判官(特例判事補)の仕事と向き合う・安堂清春(松山ケンイチ)と、彼をとりまく裁判所職員、検事、弁護士たち。それぞれが真実を求めてぶつかり合う緊迫した法廷の攻防と、時にかみ合わない会話をコミカルに描いた本作品は、“普通”とは何か、“正義”とは何かを問いかける。安堂の上司で、前橋地方裁判所第一支部の部長判事・門倉茂を演じる遠藤憲一に、役柄や本作への思いを聞いた。


門倉はロックな男であり、かわいそうなやつでもあるんです

——かつては「伝説の反逆児」と呼ばれ、反骨精神にあふれる裁判官として知られていた門倉茂ですが、どのような人物なのでしょうか。

ロックの精神で裁判をしてきた男で、妥協を許さず、過去に国が不利になるような判決を下して出世街道から外れてしまうんです。それ以降、地裁を転々として定年まであと2年、平穏に過ごしたいと思っている。上手うまく生きられない門倉はかわいそうなやつなんです。でも、魂はロックですから、あることがきっかけでやっぱり気持ちに火がついてしまうんですね。基本的には砕けた男で、この作品の中ではあったかいものを醸し出す存在だと思っています。門倉の葛藤の中で、本当の気持ちが飛び出してくる面白さは大事に演じたいですね。

——門倉に共感する部分はありますか?

仕事には妥協しなきゃいけないときもあるじゃないですか。でも妥協できずに問題が起きてしまうこともある。そういう部分は共感できますね。やらかしちゃうこともあるし、それでもいいじゃん、と思うこともあるし。僕も若い頃は妥協できずに反発することがありました。今はしません(笑)

——会見で「法廷ものは難しくて避けてきた」とおっしゃっていましたが、いよいよ判事を演じることになり、意識されていることは?

セリフに法律の専門用語や難しい言葉が多くて、それが長々と続くシーンもあるのですが、できるだけ崩したキャラクターでそれを演じるようにしています。難しいセリフをそのまま堅物のように話すと別の人みたいになってしまうので、そのバランスは結構難しいですね。めちゃめちゃ練習していますが、追い付かないぐらいです。読み物としてはすごく面白いんだけど、セリフとして覚えようとしたら難しい。不思議な作品です。

——クランクイン前に東京地裁に見学に行かれたそうですね。

いろんな裁判が同時に行われていて興味深かったです。まるで“はしご”するように1日かけて4つの裁判を傍聴させていただきました。裁判官や法廷というのは堅苦しい、無機質なイメージだったのですが、被告人とのやりとりなどを見ていると、人間味があって意外でしたね。裁判官というのはにこりともせず座っているイメージでしたが、感情も表すし、被告人に親身に語りかけたりして想像していたイメージと違ったんですよね。「裁判官も人間味を出していいんだ」と勉強になったし、門倉をイメージすることもできました。ドラマを観て、視聴者の方の印象も変わるといいな、と思っています。

——以前に、刑事役を演じられるときに、衣装を着て自宅で練習したとお聞きしたことがあります。

そうそう、あれはものすごく説明をしなければならないシーンで、ただ説明するだけではなくて動きをつけながらしゃべらなきゃいけなかったので、ネクタイを緩めたり、上着を脱いだりしながら家でセリフの練習をしました。今回は、自宅で法衣を着ての練習はしてませんけど(笑)

——台本の覚え方も出演者のみなさん、それぞれだそうですね。

松山君はノートに書いて覚えるタイプ。鳴海さん(⼩野崎乃亜役)は自分で読んで録音して、音声で覚えているそうで、僕はぶつぶつ言いながら繰り返して覚えます。カタカナが苦手で、たとえば「あの子らしいね」っていうセリフが「あの子らしいロジックだね」となると、ポンと出てこなくなる。「ロジックって何だよ」って辞書で調べたりね。でもそこが脚本家の個性でおもしろいところなんだけど。

現場ではNGもいっぱい出しちゃって、本当にごめんね、って感じなんですが、せっかく覚えたセリフが直前に変わったりするの。そこそこの長ゼリフもまるっと変わったりして、もう大パニックですよ。

——「全員がいっぱいいっぱいの現場」と会見でおっしゃっていましたが、現場はどんな状況なんでしょうか。

「カット」の声がかかると、みんなが一斉に台本を開くんです。全員が受験生みたいに必死に勉強している感じ。あと自分にカメラが向いてないときにもすかさず台本を開きます。こんな現場は初めてですが、一体感があって新鮮ですね。

——門倉はいつも部下を飲みに誘いますが、遠藤さんご自身は?

昔は、自分が率先して飲みに誘って、よく行くどころじゃないくらい飲んでましたけど、もうきっぱりお酒をやめたので今は自分から誘うことはないし、誰も誘ってくれなくて寂しい(笑)。でも門倉の気持ちはよくわかります。門倉はこの先も誘い続けて断られ続けますが、いつか誰か一緒に行ってくれるんですかね。


安堂の思い切りの良さや行動力はひとつの個性だと思っている

——今回は発達障害の裁判官という設定ですが、見どころはどんなところでしょうか。

安堂は自身が発達障害であることをカミングアウトしていないので、周囲はひとつの個性だと思って彼に向き合っています。たとえば裁判官の席で結構な貧乏ゆすりをするので門倉が「落ち着きねえな、お前」と、言ったりね。上司としては彼の思い切りの良さや意表を突く行動を評価しているし、期待もしている。自分の過去と重なるところもあるんでしょうね。

そういう特性をもっている人の中には、たとえば法律の本がすべて頭に入っているとか得意分野に関して天才的な部分をもっている人もいるそうです。安堂の場合は強いこだわりが特徴で、これもリアリティのある話として面白いと思います。

——安堂清春を演じる松山ケンイチさんとの共演はいかがですか。

大河ドラマ「平清盛」(2012年)でご一緒したことがあるのですが、そのときから演技力は目を見張るものがあったし、20代で主演を演じ切ったのは当時もすごいと思っていました。今回も難役ですが役についてかなり研究していて、目線や喋り方、仕草しぐさ、どれをとってもその特性をきっちり消化して演じているのはすごいと思う。見ているこちら側はあたたかい気持ちになるし、クスっと笑える部分もあって、緊張感と人間味のバランスがそのまま作品の魅力になっていると思います。

——本作の見どころはどんなところでしょうか。

ひとつは、裁判官の裏側を描いているところ。法廷での裁判官だけではなく、裁判官の人間味が描かれているのは今までにないと思います。原作を読んだときも、そこにかれてオファーを受けました。

もうひとつはやっぱり、安堂が自分の特性をどう生かして、どうぶつかりながら、どう乗り越えていくのか、ということ。そしてサスペンスの要素もあり、判事や弁護士、安堂をとりまく人々のラストシーンは原作にないオリジナルストーリーになっています。 “人が人を裁く”ことはどういうことなのか、深い人間ドラマを楽しんでいただけたらと思います。


ドラマ10「テミスの不確かな法廷」(全8回)

毎週火曜 総合 午後10:00〜10:45
毎週金曜 総合 午前0:35〜1:20 ※木曜深夜(再放送)

NHK ONEでの同時・見逃し配信予定(ステラnetを離れます)

【あらすじ】
任官7年目の裁判官・安堂清春(松山ケンイチ)。東京から前橋地方裁判所第一支部へと異動してきた彼は、一見、穏やかな裁判官に見える。だが、その内側には絶対に打ち明けられない秘密が……。
幼い頃、衝動性や落ち着きのなさからASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)と診断された安堂。以来、彼は自らの特性を隠し、“普通”を装って生きてきた。それでも、ふとした言動が前橋地裁第一支部の面々を戸惑わせ、法廷内外で混乱を巻き起こしてしまう。
そんな安堂の元に、複雑な人間模様が絡み合う、難解な事件が舞い込んでくる。市長を襲った青年。親友をこん睡状態に追い込んだ高校生。そして「父は法律に殺された」と訴える娘――。
やがて、安堂の特性からくる“こだわり”が、誰も気づかなかった事件の矛盾をあぶり出す。しかし同時に、彼は自身の衝動とも格闘しながら公判に挑まなければならない。
果たして安堂は、公正に事件を裁き、真実へとたどり着くことができるのか!?

原作:直島翔『テミスの不確かな法廷』
脚本:浜田秀哉
音楽:jizue
出演:松山ケンイチ 鳴海唯、恒松祐里、山崎樹範、山田真歩、葉山奨之、小木茂光、入山法子、市川実日子/小林虎之介(1話ゲスト)/和久井映見、遠藤憲一 ほか
演出:吉川久岳(ランプ)、山下和徳、相良健一、富澤昭文
制作統括:橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺悟(NHK)

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