毎週日曜日午後5時から、Eテレで放送中のアニメ「青のオーケストラ」Season2。この作品に登場するクラシックの名曲をNHK交響楽団(以下、N響)による演奏で楽しむスペシャル・コンサートが、2025年12月8日に東京・渋谷のNHKホールで開催されました。高校のオーケストラ部を舞台にした青春アニメと日本最高峰のオーケストラ・サウンド、両方の魅力を堪能することができた演奏会の模様を紹介していきます。


クリスマス・ムードに彩られる中で開催されたスペシャルな演奏会

毎年12月、東京・渋谷のNHK放送センターに隣接する代々木公園ケヤキ並木の遊歩道では、青い光に彩られたイルミネーションイベントが開催されています。そんなクリスマス・ムードたっぷりの青い光の道を通って、『N響×アニメ「青のオーケストラ」スペシャル・コンサート』が行われるNHKホールへ。
会場内には、登場キャラクターと一緒に写真が撮れるパネルが設置され、「青オケ」ファンの心をくすぐってくれます。ステージ背後のスクリーンではアニメ「青オケ」Season1全24話のハイライト映像や、Season2での全国コンクール最優秀賞受賞に至るまでの歩みが紹介されて、演奏会を楽しむ気分はいやおうでも高まっていきました。そしてN響の楽団員たちと指揮者のキンボー・イシイさんがステージへ。

演奏会の開幕を飾るのは、Season2の第12話から第14話の物語を彩ったクリスマスらしい楽曲を集めたメドレー。原作者の阿久井真先生がこのコンサートのために描き下ろした、オリジナル・イラスト(サンタ帽をかぶった青野 一、佐伯 直、佐久間優介)がスクリーンに映し出され、萩森英明さん編曲による「もろびとこぞりて」「アヴェ・マリア」「ハレルヤ・コーラス」が続けて演奏されました。イラストに描かれた青野くんたちにCGで表現された雪の結晶や音符が降り注ぐという、この季節にベストマッチの演出も。N響のふくよかな弦の音色に、会場がふんわりと包まれ、聞く人たちを至福のひと時へと誘ってくれます。

手前写真左から、声優の神谷浩史さんと土屋神葉さん、林田理沙アナウンサー。

演奏が終わると、アニメで佐伯 直の声を担当した土屋神葉さんと佐久間優介役の神谷浩史さん、司会を務める林田理沙アナウンサーが、拍手に迎えられてステージに登場。「青オケ」のテーマであるオーケストラの魅力など、トークに花を咲かせます。作品に登場する海幕高校のモデルになった高校の定期演奏会に何度も足を運び、2023年5月に開催された「N響×青のオーケストラ コンサート」にも出演している土屋さんは、演奏を聴いての感想を問われると、

土屋:演奏者の一人一人の気持ちが、音の波になって打ち寄せてくるところかなと思います。

という見事な答えが。一方、神谷さんは意外にも今回が初めてのオーケストラ体験だったと明かし、

神谷:もう感動しました! すごいですね。本当に「すげえな」と思って。きれいに言葉が出てこないです。本当に(笑)。

30年のキャリアを持ち、アーティストとしても数々の大ステージにも立ってきた百戦錬磨の神谷さんが言葉を失うほど、オーケストラの生音に強く心が打たれていたのが伝わってきます。

続いて演奏されたのは、通常はコンサートのメインに置かれることが多い大曲、ドヴォルザーク作曲の交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」-第4楽章。青オケSeason1のトリを飾った曲が早くも登場します。定期演奏会に向けた海幕高校オーケストラ部の描写がアニメ映像で紹介され、「一音一会!」の掛け声の後、キンボーさんのタクトが一閃! 情熱的、かつダイナミックな演奏をN響から引き出していきます。
その演奏が終わり、再びステージに登場した土屋さんも、N響の熱演をこう表現。

土屋:「新世界」の真のパワーを、今改めて感じました。


「青オケ」で描かれた青春模様についてのトークも

そして「青オケ」の魅力である、丁寧に描かれた高校生たちの学園生活についてトーク。林田アナがアニメの中で青春の機微を感じたシーンを神谷さんに尋ねると、

神谷:Season2の第7話で、演奏の感想を聞かれて、みんな膝をかかえて一言もしゃべらないシーンがあったかと思いますが、高校生のころって、何を言ったらいいのか分からなかったり、誰かが言ってくれるだろう、みたいに人任せで物事が先に進んでいったりすることがあるんですよね。あのシーンは、何も生まれない時間が過ぎていくのをアニメで表現していて、「怖っ」と思いましたね(笑)。青春の1ページというか、青いところを見せられた感じがしました。

続いての曲は、チャイコフスキー作曲のバレエ組曲「くるみ割り人形」作品71a-「花のワルツ」。N響の色彩感にあふれ、軽やかに舞うような演奏の背景に映し出されていたのは、この曲が大好きなハルちゃん(小桜ハル)を中心とした描写。小学2年生での青野くんとの出会いから、彼への思い、体育祭でのハプニング的接近遭遇まで、ハルちゃんの魅力が満載で、まさに“ハルちゃんスペシャル”! そしてクライマックス映像は、Season1の第23話、定期演奏会のシーンへと……。 N響版のシネマ・コンサートと思わせてくれるような演出がほどこされていました。

演奏後は、土屋さんと神谷さんが、それぞれのキャラクターをどのように演じているのか語っていきます。

土屋:Season1に佐伯が青野と異母兄弟であると打ち明けるシーンがありましたが、演者として、佐伯が自分の存在が罪だと思っている気持ちを、どういうモチベーションで演じればいいのか、すごく悩みました。生きることがつらいという思いを、エンタメの中で届けるために、どうすればいいのか、と。思ったのは、佐伯として本当に苦しんで壁を乗り越えていく姿を、同じように苦しんでいる方に見ていただいて「自分も一歩踏み出してみようかな」と、何かが起きる助けになればいいな、ということでした。それが佐伯を演じるうえで、とても意識したところでした。

また神谷さんは、挑発的な言葉で部員たちの感情を逆なでしながらも、物事の本質をついている佐久間のキャラクター像について、

神谷:自分なりに、なぜ彼がそんなに嫌なことを言うんだろう? と考えながら、音にしました。佐久間なりに、このオーケストラがもっと良くなるように、という思いからなんですが、ナチュラルに嫌な言い方をしちゃう。そのナチュラルの中には、さまざまなことが含まれていて、そこを僕がうまいことやれているんだろうなと自負しております(笑)。

演奏会前半の締めは、Season2の第9話で全国コンクール連覇を目指した海幕高校オーケストラ部の演奏曲である、サン・サーンス作曲の歌劇「サムソンとデリラ」-「バッカナール」。さまざまな感情を呼び起こすオペラの楽曲に、海幕オケ部の「優雅さ」「妖しさ」「怒り」を追い求めるハイライト映像と、N響の演奏が融合し、まさにスペクタクル! キンボーさんの躍動感に満ちた指揮によって、N響がこの曲に込められた感情をパワフルに歌い上げていきます。


東 亮汰と山田友里恵が「ドッペル」演奏に込めた思いは

後半がスタートして、林田アナとともにステージに姿を見せたのは、ヴァイオリニストの東 亮汰さんと山田友里恵さん。もちろん、青野くんとりっちゃん(秋音律子)の演奏を担当する“中の人”です。2人がソリストとして演奏するのは、Season2の第11話で青野くんとりっちゃんが、りっちゃんの母・秋音 司の誕生日プレゼントとして弾いた、バッハ作曲2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043-第1楽章、第3楽章。ドイツ語でダブル(2つ)という意味で「ドッペル」と呼ばれるこの曲を、劇中では2人で弾いていましたが、今回はキンボーさんが指揮をするN響メンバーとの共演で奏でられます。

ステラnet編集部は演奏会前日に2人を訪ね、演奏会の意気込みなどを独占取材しました。ちなみに山田さんは、2017年から3年間、N響アカデミーで学んでいた経験があります。

写真左から、東 亮汰さんと山田友里恵さん。

山田:(N響アカデミー時代は)オーケストラの中で毎回、レッスンがありましたし、一緒に演奏することもありましたが、ソロで立つのは初めてなので緊張しています。でもリハーサルで皆さんが温かく迎えてくださったので、今は楽しみな気持ちのほうが大きいですね。それに東くんが一緒で、2人でソロを弾くのも楽しみです。

――お2人とも室内楽(少人数編成で演奏される音楽)の分野ではN響のメンバーと共演されていますが、今回のステージはまた違う感覚なのでしょうか?

山田:でも「ドッペル」は半分、室内楽みたいな。

:大きな室内楽といいますか。今回は指揮者のキンボーさんがいらっしゃいますけど、この曲は通常指揮者がない状態で演奏されることの方が多いぐらい、演奏者間の直接のコミュニケーションで成立できる作品なので、そういう意味では室内楽的な要素は強いと思います。アニメのシーン的にも、律子ちゃんの家のリビングで、直接お母さんに届けるという。

山田:そう、「for one」の演奏で。それが今回はコンサート、ましてNHKホールなんて3000人規模だから……、広いですよね。

――明日の演奏のために、2人で話し合われたりもしましたか?

:アニメの収録のときはリハーサルを重ねすぎるとみ合ってしまって、(青野と律子の演奏)っぽくなくなるかな、と思ったんですけど、今回そのあたりは意識せずに、いい演奏ができればと思います。話し合った点でいえば、ざっくり大きなことで言えば、テンポ設定であったり、今回の曲でいうと2拍子だけど4拍子でも取れてしまうような曲でもあって。

山田:第1楽章、ね。

:どういう意識でどういうテンポ設定にするかであったり、ボウイング(弦に対して弓をどのように動かすか)をそろえることであったり、どこに音楽的な頂点を持ってくるのかまで、気になるところをお互いに調整して話しました。でも、あまり固めすぎると演奏の自由度がなくなって、本番でオーケストラと弾いているときに新たに得られたインスピレーションを入れづらくなってしまうので、その余裕も作りつつ、軸となる部分は話し合って決めていく、みたいな感じですね。

アニメでは母への感謝を込めて奏でられた「ドッペル」が、コンサートではどのように奏でられたのか。ヴァイオリン同士がまるで会話をするかのような、そして時に寄り添うような演奏を、ぜひ放送でご確認いただきたいと思います。もちろん、青野くんとりっちゃんの歩みを描いた映像も……。


ラストを飾るのは、これからアニメに登場するN響とも“縁の深い”楽曲

さて「ドッペル」に続いて演奏されるのは、東さんがソロを弾く、メンデルスゾーン作曲のヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64-第1楽章から。この曲はSeason1の第1話冒頭に登場していましたが、そこで流れたのは第3楽章。という意味では「青オケ」初登場曲と言えるかもしれません。

:ダイジェスト版みたいな短いバージョンですけれど、ヴァイオリンのレパートリーの中では特別な作品なので、この曲の魅力をぎゅっと凝縮してお伝えできたらいいなと思っています。

東さんのソロ演奏が終わると、林田アナから「青のオーケストラ」に関する新情報も。1月18日(日)放送分からは、世界ジュニアオーケストラコンクールに向けて集められた高校生たちが日本代表としてしのぎを削ることになり、青野くんたちの新たな挑戦が始まります。そこで取り上げられるのが、芥川也寸志作曲の「交響管弦楽のための音楽」。林田アナは、この曲がN響とも縁の深い作品であることを紹介していきます。

1950年、当時24歳の芥川也寸志は、この曲をNHK創立25周年記念事業の懸賞募集に応募。そこで特賞に選ばれ、NHK交響楽団の前身・日本交響楽団が世界初演を行いました。そんな曲で、キンボーさんがどんな景色を描くのか……。

全2楽章の構成で、軽快なリズムを刻む第1楽章から、若く挑戦的なエネルギーがほとばしる第2楽章への展開。そのダイナミックな変化が魅力となっているこの曲を、踊るような指揮でオーケストラから引き出していきます。まさにアグレッシブ! そしてこんしんのフィニッシュ!


コンサート終了後、バックステージを訪ねて、東さん、山田さん、キンボーさんにお話をうかがいました。今回の演奏会を終えての感想は?

写真左から、指揮者のキンボー・イシイさん、ヴァイオリニストの東 亮汰さんと山田友里恵さん。

山田:前半から楽屋で演奏を聴かせていただいていましたが、演奏を聴くにつれてワクワクしてきて、本番は楽しく演奏することができました。原作は漫画で、そこに音はないじゃないですか。それがアニメになって音がつくと、「あ、こんな感じなんだ」とわかる方がいると思うので、アニメになったのがすごくいいと思います。

:とても楽しかったです。NHKホールでのN響の皆さんというのは、子どものころから「N響アワー」を見ていた僕にとっては、テレビで見慣れている“画”なので、ご一緒させていただいて光栄でしたし、ステージをしっかり楽しむことができたかなと思います。
そして、今回のコンサートは、さまざまなクラシック曲が登場して、オーケストラがかかわる作品でも、バッハのような小規模な作品から「新世界」のような大きな作品まで、音の響きや厚みも全然違います。それぞれの作品のキャラクターのいいとこどり、バラエティーボックスみたいな魅力的なプログラムになっていると思いますので、聴いていただいて、お気に入りの1曲を見つけていただければと思います。

キンボー:テンションが上がりましたね。若い才能と、一期一会みたいな感じで共演できて、一つ一つの音を大切に、みんなとわかち合えたというのは、本当に貴重な体験だったと思います。この機会をいただいて、ありがとうございます。その一言に尽きますね。
音自体は目で見えないし、触れないものですけれども、こういう企画によって可視化すれば、音を形にして伝えることができます。皆さんにそんな立体感のある、輝かしい演奏、そういうものを楽しんでいただければと思います。クラシック音楽というのは何百年も続いていますが、近年あまりにも、あって当たり前のように引き継がれてきている感じがして、線は細く、長くなって、いつか切れてしまう。でも、こういう作品によって線がまた太くなって、さらに次の100年、200年と、モーツァルトやチャイコフスキーが引き継がれていくことを私たちは望んでいます。

取材・文/銅本一谷

写真提供/NHK交響楽団


放送100年 N響×アニメ「青のオーケストラ」スペシャル・コンサート

1月18日(日) Eテレ 午後4:00~5:00

[コンサート演奏曲目]

・クリスマス・メドレー(もろびとこぞりて~アヴェ・マリア~ハレルヤ・コーラス/萩森英明編)
・ドヴォルザーク/交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」― 第4楽章
・チャイコフスキー/バレエ組曲「くるみ割り人形」作品71a ―「花のワルツ」
・バッハ/2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043から◆◇
・メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64 ― 第1楽章から◆
・サン・サーンス/歌劇「サムソンとデリラ」―「バッカナール」
・芥川也寸志/交響管弦楽のための音楽

[出演]
指揮:キンボー・イシイ
◆ヴァイオリン:東 亮汰 (劇中で主人公・青野 一の演奏を担当)
◇ヴァイオリン:山田友里恵 (劇中で秋音律子の演奏を担当)
ゲスト:土屋神葉(佐伯 直 役)
ゲスト:神谷浩史(佐久間優介 役)
司 会:林田理沙 アナウンサー