小一郎(仲野太賀)、藤吉郎(池松壮亮)の母であるなか。夫を早くに亡くし、女手一つで、とも(宮澤エマ)、藤吉郎、小一郎、あさひ(倉沢杏菜)という二男二女を育ててきた。ずっと農民として生きてきたなかは、ふたりの息子の出世に戸惑いながらも、温かく見守っていく。藤吉郎が天下人となるまで兄弟を優しく支えていくなかを、坂井真紀はどのような思いで演じているのだろうか。
なかはあたたかくて、強くて、優しくて、こんなお母さんがいたらいいなって思う女性
――まず、今作の出演が決まった時の率直な感想をお聞かせください。
「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(2019年放送)で初めて大河ドラマに出演したのですが、今回は大きな役で1年をとおして出演させていただけることになって。大河ドラマに出演することは俳優として大きな目標でもあったので、涙が出るほどうれしくて、本当なのかなと信じられないくらいでした。でも、それと同時に、皆さんに広く知られている人物なので、責任の重さも感じましたね。
――いままでたくさんの作品で描かれてきた「なか」という女性を、坂井さんはどのように演じようと考えられていますか?
なかは、母として本当にあたたかくて、強くて、優しくて、こんなお母さんがいたらいいなと思うような女性です。これまで錚々たる俳優陣が演じてこられた役なので、最初はどうしても皆さんのお顔が浮かんで、どのように演じるべきか悩んでしまったんです。でも、制作統括の松川(博敬)さんから、「今まで演じてきた方々のことは意識せずにやりましょう」という力強い言葉をいただいて、「豊臣兄弟!」のなかを演じようと思えました。若者たちがとても生き生きと元気に描かれる作品ですが、親という存在は普遍的なものですから、彼らを優しく見守って、ドンと受け止められる存在でありたいです。
――貧しい暮らしの中、なかは女手ひとつで4人きょうだいを育ててきました。そんななかの強さはどこからきているものだと感じていますか?
自身の経験からも感じたのですが、守るべきものができると、なにか言葉にできないような力をもらえるような気がするんです。その力は、母親を演じる時にも必ずあると感じています。時にはつらくて涙を流すこともあるかもしれないですが、それ以上に子供を大切に思う力が大きいんです。なかの生きた時代は、今以上に人はたくましくて野生的だったでしょうから、そういった意味でも現代より女性が強くいられたのかなと想像しています。
実は、なかは「藤吉郎ラブ」なんです(笑)
――藤吉郎(池松壮亮)をはじめとして、とても個性的なきょうだいですが、坂井さんからご覧になって、それぞれどんな子供たちですか?
藤吉郎は、よく言えば瞬発力がある、悪く言えば、暴走機関車のように進んでしまう子です。でも、人たらしというか、すごい愛嬌と魅力を持った人。実は、お母さんはちょっと藤吉郎びいきで、監督からも「藤吉郎ラブ」で演じてくださいと言われているんです。一緒に演技をしていると、藤吉郎の魅力を随所で感じるので、もうラブですね(笑)。でも、もちろん同じくらい小一郎(仲野太賀)も大好きです。兄の影響もあり、冷静で落ち着きがあって、一歩下がっているけど、まわりをよく見ている家族思いの子です。とも(宮澤エマ)は私よりしっかり者。家族を仕切ってくれる、本当に頼れる存在。あさひ(倉沢杏菜)は末っ子らしく、のびのびとしていて本当にかわいいですね。

――第2回では、なかが侍になることを迷う小一郎の背中を押すシーンがありました。息子が侍になるのは心配もあると思うのですが、なかはどんな心境だったのでしょうか?
ずっと兄の陰に隠れて、家族のために働いてきた小一郎の姿を見てきたので、ここは私が背中を押さなければと思い演じました。もちろんとても心配なのですが、親として一歩前へ進むことの大切さを教えないといけないなと。「侍になりたい、兄と一緒に行きたい」という小一郎の気持ちは、顔を見たらわかると思うんです。少しでもやりたいという気持ちがあれば、いつの時代も親は背中を押したいと思うはずですから、そういうところで、母としての愛情が出せたらと思って演じました。
太賀くんは、演じる人物の体温が伝わってくるお芝居をされる人
――出演決定時に、仲野さんが「4人で坂井さんに甘えさせてもらいます」とコメントされていましたが、4きょうだいの現場での雰囲気はいかがですか?
いや、かわいいですね、本当に。太賀くんも池松くんも家族のシーンになると、「ここ癒やされる〜」と言ってくれて、きっと戦のシーンが大変なんだろうなと想像しています。子供たちだけじゃなくて、寧々(浜辺美波)さんも、直(白石聖)さんも、みんなかわいくて、私の子どもたちという思いがどんどん高まっています。

――仲野さんと池松さんの兄弟ぶりは、近くでご覧になっていかがですか?
とても仲よしで、本当に兄弟みたいなんです。お芝居についてもふたりで話し合ったり、あさひ役の倉沢さんに「こういうことしてみたら?」ってちょっとアイデアをあげることも。撮影に来るたびに、このふたりが息子で本当に良かったなと感じます。池松さんがお兄さんらしく引っ張ってくれるところもあるし、逆にいたずらすることもあって、太賀くんは池松くんに「NGを出したらギャラなしだぞ」とからかわれたりしていますね(笑)。

――とても雰囲気のいい現場なんですね。仲野さんとはWOWOW「神木隆之介の撮休」とDisney+「季節のない街」に続いて3度目の親子役ですが、いままでと違いはありますか?
3度目なんですが、1度目は息子が出て行ってしまった役で、撮影の時には1度も会えなかったんです。2度目も長男ばかりかわいがるお母さんだったので、次男役の太賀くんには本当に可哀想な思いをさせてしまって。だから、今度こそものすごくかわいがるぞって意気込んで現場に入ったんですけど、監督から「藤吉郎ラブでいてください」という言葉をいただいて、藤吉郎びいきな母に(笑)。だから、第6回で初めて小一郎に「餅でもお食べ」と言う優しいセリフがあったので、そこは心を込めて言いました。太賀くんは演じる人物の体温が伝わってくるお芝居をされる方なので、一緒に撮影をしていてもキャッチボールが本当に楽しいです。
どんなにふたりが出世しても、家族の幸せがなかの願いなんだと思います
――1年以上1つの役を演じるというのは大河ドラマならではのことだと思いますが、長く1つの役を演じることの面白さは感じますか?
こんなに長く1人の人物を演じることは初めてなので、自分自身もすごく楽しみですし、こんな機会は一生に1度かもしれないので、作品にどっぷり浸って大切に演じたいです。また、今回は撮影が空く期間もあるので、役をキープするために脚本を繰り返し読むようにしています。脚本を読むとその世界に戻れるんですよね。
――読み込まれて、八津さんの脚本の面白さはどこにあると感じていますか?
登場人物がとても生き生きとしているんです。言い方に語弊があるかもしれないんですが、みんながマンガの登場人物みたいに元気よく魅力的で、とても親しみやすいキャラクターとして描かれているなと感じます。

――兄弟が出世していくにつれて、なかの生活や人生も大きく変わっていきます。なか自身も変化していく部分はあるのでしょうか。
息子たちは、人のために家族のために出世しようと頑張ってくれますが、ふたりがどんなに出世をしても、私は、農民出身であるからこそ知っている、人のぬくもりや人として大切なことを忘れない、ブレないお母さんでありたいなと思っています。どんなに身分が高くなっても、やっぱり家族の幸せが自分の幸せで、子供たちが元気でいることがずっと一番の願いなんだと思います。当時は現代よりももっとリアルに生死が隣り合わせだった時代だったと思うので、やっぱり家族が一緒にいられること、家族がつながっていることを楽しみながら演じたいですし、そこを大切にしていきたいです。