やなせたかしと深い絆で結ばれていた作曲家・いずみたくをモデルとする人物、いせたくやを演じるのは、大人気バンドMrsミセス. GREENグリーン APPLEアップルのボーカル・ギターを担当する大森元貴。その大森に、朝ドラ出演の印象や、共演者との思いについて話を聞いた。


「これが“朝ドラ”か!」と思った瞬間とは!?

――たくやはカフェで出会ったメイコ(原菜乃華)に歌のレッスンを持ちかけるなど、グイグイ接近していきますが、彼の中に恋心みたいなものがあったのでしょうか?

恋心というよりは、メイコが「素人のど自慢」に出場することで自分を表現したい、好きな人に対してもアピールしたいというのを、自分ごととして受け止めたのではないでしょうか。たくやは、人の顔色をよく見て、その場の空気からいろんなものをキャッチしている人物。ですので、自然とメイコのそういう感情をキャッチして、一緒に楽しいことができて、いい思い出が作れればという気持ちだったと思っています。

――原菜乃華さんは大森さんよりも年下で、その原さんを「お姉さん」と慕うことには、どんな印象を持ちましたか?

そうなんですよ。「これが“朝ドラ”か!」と思いました(爆笑)。いや、僕も「あんぱん」はもちろん拝見していたので、メイコのキャラクターは一視聴者としてずっと見てきました。だから原さんとお芝居をしていても、子どものころのメイコのイメージがあるから「うわぁ、そっか、こんなにお姉さんになったのか」みたいな(笑)。そこはやっぱり原さんがお見事で、彼女の醸し出す空気感が、全然年下じゃなかったんですよね。だから年齢のことを考えることもなく、その場の感覚として違和感なく演じさせていただいて、「原さん、さすがだな」と感じました。

――メイコに歌唱指導をする場面もありましたね。

そのシーンでは僕が結構“遊んで”いまして、お芝居の流れの中で、台本にないセリフも言ってみました。というのも、メイコが「素人のど自慢」に出たくて歌を練習する中で、いせたくやという青年に翻弄されたり、彼の熱量に圧倒されたりするシーンでしたので、たくやとしても力が入っていろいろ言いたくなるだろうな、と。メイコに予選会を通ってほしいという純粋な気持ちから「もっとお腹から声出して!」とか、そういう言葉を原さんに投げかけてみました。僕としては、すごく微笑ほほえましいシーンになったかなと思います。

――「東京ブキウギ」を歌う原さんの歌声は、いかがでしたか?

てきでした。いや、本当にすごいなぁと思って。本番が始まる前に、原さんが「ミセス(Mrs. GREEN APPLE)のこと大好きです」と言ってくださったんですよ。それで「え、なんで本番直前に言うんだろう? どうしよう、僕、間違えられないじゃん」みたいな(笑)。下手なところを見せたらどうしよう、と思ってしまって、なんか原さんに試されたフシもあるんですけれど(笑)。でも、撮影はとても楽しいですね。


柳井嵩といせたくやはタイプが違うようでいて、同じ本質を持つ

――史実では、やなせたかしさんといずみたくさんは“盟友”と呼べる関係でしたが、嵩(北村匠海)とたくやの関係性については、どのように捉えていますか?

嵩は、心の中ではすごく燃えているものがあるのに、それをどういう形で表現に結びつけるのか、その取っ掛かりというか、つかみ切れていない何かがあるように僕は見受けています。それに対してたくやは、とても積極的で、すごくアウトプットができる人間。嵩とは違う性格のようにも見えますが、内に通っている熱、燃えている炎は同じだと感じていて。匠海くんともそういう話をして、まったく別のタイプに見えるけど、実は同じ本質を持つ人だなというのを意識しながら演じました。

――北村さんとの現場でのエピソードはありますか?

匠海くんと僕は、7年前ぐらいに一度音楽のほうで共演しています。ほぼ同い年なので、彼がこれまでやってきたことも同世代の同志としてすごく見ていたし、すごく尊敬しています。「あんぱん」のリハーサルで久々に再会したときに、あれから時間が経ったんだな、ここまでお互いにやってきたことはすごく誇らしいことだなと深く感じました。そして現場では、彼が持っているバランス感覚が、たくやと僕を本当に支えてくれていると実感しています。

――北村さんが取材で話されていたのですが、音楽業と俳優業を両立することについても語り合われたそうですね。

もちろん僕は、その域には至っていないのですが(笑)。彼もすごく若いタイミングからこの業界で活躍されていて、音楽をやっていることも含めて僕はすごく尊敬しているんですけれど、大前提として、両立することはすごく難しいことがたくさんあると思っていて。北村匠海というと、誰もが高く評価する表現者であることはわかりきっているけれど、彼も一人間ですし、僕は素直に「本当にすごいよね」という話をしただけなんです。

でも、それは彼からしてみればすごく新鮮な言葉じゃないかと僕は思っていて。僕自身もいまだに「頑張っているね」とか「歌、うまいね」と言われることがうれしいわけで、同じように褒められたい部分、甘えたい部分について話をしました。お芝居の大変さとか、僕はまだまだですが、やっぱりライブを1回することに対する尊さ、すり減らし方みたいなものはわかるので、本当に彼のことを尊敬しています。