高知の闇市から姿を消していた健太郎が、再びドラマに登場。銀座のカフェで働くメイコ(原菜乃華)と電撃的に再会して、2人の関係は急展開を迎えることに。そして、あっという間にパパとママ!?
波乱万丈な人生を歩み、親友・嵩(北村匠海)の義理の弟となった健太郎のこれまでについて、演じる高橋文哉に第19週を振り返るとともに、嵩との関係の変化、自身の心境を語ってもらった。


高橋文哉による第19週振り返り。メイコに対する気持ちの変化は?

――第19週は健太郎の周囲で物語がとうの展開を迎えていますが、せっかくなので高橋さんに“まるっと”振り返ってもらえますか? まずは火曜日(第92回)の再登場で、健太郎がいつの間にかNHK職員になっていたことに驚きました。

そうなんです。いつの間にか、なんですよね。

――闇市からいなくなった後、健太郎がどういう道を辿たどったのか考えましたか?

考えました。どうしてNHKに入ることになったんだ?と。後々のセリフの中に、「メイコちゃんがラジオから流れる『素人のど自慢』を聴いているのを見て……」という説明がありましたが、それだけではないほかの理由も考えました。これは台本にはない、監督にも言ってない、僕だけの解釈ですが、闇市にいたときって、健太郎の気持ちがいちばん暗い時期だったと思うんです。戦地にいるときとは種類の違う重さというか。

その中で聞こえてきた「素人のど自慢」、いわゆるエンターテインメントの世界に自分も励まされて、その恩をいつか返したいという気持ちがどこかに芽生えていたのかなと。その中で選んだのがNHKで、歌うことが好きとかギターを弾くのが好きとか、そういう自分を見つめ直したときに、そこで働くことを考えたのかなと思いました。

簡単にNHKに入れたわけではないと思っているので、シーンの中で嵩は「今はNHKでディレクターやってるんだって」と言っているときも、そうなんだよ! と、すごく誇らしげな顔をしているんです。胸を張っているというよりも、入れたことに喜びを感じているような。健太郎がどんな番組を作っているのかは、まだ描かれていませんが、エンタメの世界でモノづくりをする楽しさを、日々感じているんだろうなという感覚があります。

――同じ放送回でメイコと再会しましたが、メイコの恋心に健太郎が少しも気づかないことについて、どう感じましたか?

僕個人としては「それは無理じゃないか?」と思いました(笑)。そもそも第6週くらいから、僕はずっと「さすがに気づくだろう」と思っていたのですが、どうしても監督の橋爪(紳一朗)さんから、気づかないでいてほしいという要望があって。「のらくろ」のくだりも、どうにかして健太郎として距離を近づける理由を探して、絵と見比べるためにメイコをじーっと見てみて、それがメイコからすると見つめられているように思える、みたいな。すれ違いコントのような恋だな、とも思いながら演じていました。闇市にメイコが訪ねてきたところも、そんな感じでしたね。

――水曜日の放送(第93回)で、「素人のど自慢」の予選会に参加したメイコの歌を聴きに行く場面では、まだ彼女への恋愛感情は持っていなかったのでしょうか?

最初に出会ったころから明らかにメイコとしゃべっている回数や会う回数が多くなって、知らない間にその感情が積み重なっていった。健太郎は、その感情のドアを開けてみようとすることもなければ、そこに目を向けることもなかった。すごく表現が難しいのですが、自覚していない恋ってあるじゃないですか。それだと思うんです。
予選会の後でメイコが蘭子(河合優実)さんから「いつまで思いを……」と言われたところから「あれっ?」となってくる、という段階の踏み方をしていました。

――健太郎とメイコが結婚する展開を、元々聞いていたのですか?

最初の段階では、全く知らされていませんでした。聞いたときには、やっぱり「そうだよねぇ」と。「じゃないと、メイコが報われないよね」と、キャストみんなで言っていました(笑)。嵩とのぶ(今田美桜)もカップルになるまで長かったですが、健太郎とメイコも相当長い。ご覧になっている方も「やっとか!」と感じているだろうなと思います。

――木曜日の放送(第94回)では、パパになっていましたね。子どもが2人もいるお父さんの役は、初めてではないですか?

初めてです。初めて結婚指輪をしましたが、撮影の最初のころは、お芝居の中でも指輪が気になってついつい見たり触ったりしていました。そして、自分の子どもとのシーンを撮りましたけれど、「そうか、パパ役か」という感じです。「あの健太郎が、パパに……」のほうが強いですが。一応パパだからと思って、子役さんに“飛行機”をして一緒に遊びました。

――子役さんといると、父性感情というものも芽生えてくる感じですか?

子どもの目は純粋なので、子どもが「この人、好き」という目になってくれたらいいな、というつもりで接していました。僕にはおいっ子、めいっ子がいますので、それで助かった部分はあります。実生活でも“疑似パパ”みたいなことをやっているので。


年齢を重ねても、嵩との関係性は変わらない

――さて、健太郎自身について教えていただきたいのですが、嵩の親友になってから戦中・戦後と歳月が流れて、2人の関係性はどのように変化したと考えていますか?

2人を取り巻く環境が大きく変わっていますが、「変わらない2人」でありたいなと思っています。今は41歳あたりを北村匠海さんと一緒に撮影させていただいていますが、嵩がどんどん落ち着いていく中で、健太郎はどうあるべきなのかということは、ずっと考えています。

試しに、ちょっとトーンを落として演じてみたのですが、これが違和感でしかなくて。おそらく落ちないんだなと思いました。そういう人もいるじゃないですか。40、50歳になっても本当に元気で、明るく陽気な人。「いくつになっても柳井君は変わらないね」というような健太郎のセリフがあるのですが、それは彼が変わらないことに対して言っているのではなくて、自分たちの関係性が変わってないことがうれしくて言っているんだと思います。嵩がモゾモゾしているときに「なんでそんな暗くしてるの?」ってストレートに言える関係性が変わっていないことへの喜びがあるのかな、と思っています。

――しっかり絆が結ばれていると感じます。

大人になっている分、ちょっと冷たくというか、強めに言葉を投げるシーンも今後できてきたりもしますが、それこそ出会ったころの学生時代の2人にはできないもので、それだけ健太郎が嵩を深く理解している証拠だと思います。今は、そこにメイコが入ってきて、もう嵩は「おさん」になっているので(笑)。でも「お義兄さん」と呼びかけてふざけあっていられるのも、2人の関係性があるからできることだと思っています。


健太郎の素敵な人柄を、これからも守っていきたい

――改めてになりますが、「あんぱん」という作品の魅力をどう感じているのか、聞かせてください。

第一印象は、本当に朝から元気をもらえる作品だな、というものでしたが、健太郎がドラマに大きく関わっていくようになって、戦争の時代に入ったり、人の死があったりする中で「大切」という言葉がすごく身近に置かれている作品だと感じました。

――高橋さんにとっても、この作品が大切な存在になっているのですね。

まだ撮影は終わっていませんが、「あんぱん」から受けた影響はものすごく大きくて、たくさん勉強させていただきました。諸先輩方ともご一緒させていただき、日々現場で、そして家に帰ってからも「お芝居というものは」と考えていました。何よりも現場の空気が楽しくて仕方しかたなかったですね。

その最たるものが、北村匠海さんとの出会いでした。お芝居のことや仕事じゃない話も聞いてくださいました。世代を担って走り続けてきた人のそばに今いられることが、すごく幸せだなと思いました。北村匠海さん自身、芸歴がとても長いので、お芝居に対する意識、現場でのたたずまいを含めて全てに影響を受けましたし、本当に出会えて良かったと思っています。

――ここまで健太郎を演じてきて、日常生活の中で役が染みついてきたなと感じることや、「今、ちょっと健太郎っぽかったな」と思う瞬間などはありますか?

これが、健太郎に関しては不思議となくて。これまでどんな役を演じていても、意外と私生活や、ふとした瞬間に役のクセなどが出たりしていたのですが。博多ことばがぽろっと出ることも全くなくて。
それで言うと、健太郎を演じるときの役づくりとして、僕は自分の心臓の位置を5cm上げるイメージでテンションを上げていたので、それが1つのスイッチになっていたのかもしれません。多分、本当に現場の空気と共演者の皆さんの顔を見たときに、健太郎になれるんだろうなと思っています。

――今後の物語の中で、健太郎の人生をどんなふうに生きていきたいと思っていますか?

健太郎を何歳まで演じることになるのか、まだわかっていませんが、最後まで登場させていただくとしたら、1人の人間の数10年という人生を生きることになるわけで、それは本当に“朝ドラ”ならではですし、ありがたいことだなと思います。

今、40代を演じていて、自分が16年後にどうなっているか、なかなか想像できないのですが、何とか自分に置き換えて、年齢を重ねた健太郎を想像して演じています。自分に素直な健太郎が、ちゃんと自分を大切にしているところは大事なところかなと。先ほどもお話しした、この作品の中で得られたいろんな「大切」という言葉が、健太郎にはすごくあるんだろうな、と。

健太郎は、若いころには、危なっかしさやふわついた部分があったと思うのですが、だんだんそれが抜けてきて、たぶん仕事もできる人間になっていると思いますし、気配りの人間で相手の気持ちに寄り添うことが得意なんだと思っています。それを自分のためにやっているのではなく、本当にその人のことを大切に思っているからこそできる。メイコに改めて思いを伝えるシーンも、本当に健太郎らしいな、ステキな人柄だな、と思っているので、そこを大切に僕としても守っていきたいです。