ドラマの出演者やスタッフが「この回のあの人、あのシーン」について語ったコメントを不定期で配信するコーナー。今回は、松平定信さだのぶ役の井上祐貴さんから!


井上祐貴さんの第36回振り返り

——黄表紙が大好きだった定信が、自分が進める改革のせいで多くの作家が筆を折り、今回、恋町春町(岡山天音)までもが亡くなりました。

演じていてしんどかったです。本当に悲しい運命ですよね。定信は子どもの頃から黄表紙が大好きで、ずっと楽しく読んできた人。自分で絵も描くくらいですし……。その大切なものを自分の手で統制せざるをえなくなるシーンが、たくさん描かれました。ショックと苦しみの中にいる定信を大切に演じたいと思って、撮影に入る前に演出の皆さんとたくさん話をして、気持ちを膨らませられるだけ膨らませてスタジオに入りました。

——春町が切腹したことを知った後、定信は一人声を上げて泣きましたが、あの時の気持ちはどのようなものだったのでしょう。

どこかにぶつけないと収まらないような感情になったからこそ、あのような行動に移ったのかなと思います。定信にとっての恋川春町とその黄表紙は、自分の世界を広げてくれた大切な存在です。その命を自分の政策によって絶たせてしまった……。とても複雑で、たくさんのことが定信の頭の中を駆け巡ったのだと思います。

脚本家の森下佳子さんが人間味あふれるシーンに描いてくださっていて本当に感謝していますし、あのシーンを経て、定信を堅物なだけではない、てきなキャラクターにしたいという思いをさらに強くしました。

——定信にも葛藤はあった、ということですか?

好きなものを取り締まるというのは、本当は不本意だと思います。でも今のまつりごとを見たときに、やっぱり「質素倹約を掲げないとうまくいかない」と定信の考えがまとまった。だから、好きな黄表紙を統制してでも、自分が正しいと思った道を貫いたのでしょう。良くも悪くも芯の通った人間だと思っています。特に「寛政の改革」の時期は、葛藤を常に抱えているだろうと思って定信を演じています。